2014年2月22日土曜日

宮尾登美子「松風の家」

宮尾登美子著「松風の家」 
 茶禅一味<ちゃぜんいちみ> 「茶は遊にあらず、芸にあらず、道なり。道を忘れる者は、日本の心を忘れる者なり」明治維新によって、大名家の没落とともに茶道が衰退する中、庭に植えた茶の木から茶を摘み、裏手の山から山菜を採って、一汁三菜で糊口をしのぐ。禅の精神を体現し、「心あれば無尽蔵」と茶の伝統と普及に精進する。「今日を限りの一日花」としての木槿(むくげ)の花を愛で、「学びの海は広くとも、渡らばなどか越えざらん。教えの山は高くとも、踏むに至らぬ事やある」という気概で、明治維新の疾風怒濤の航海に、絶えることのない法灯としての茶禅一味の精神を継承する。それは、宮尾登美子さんの小説が、人生の荒海を渡る「櫂」であり、小説道とも言うべき法灯であるのだろう。

宮尾登美子著「春燈」
 物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂(たま)かとぞみる 和泉式部
いい作品に出会うと、魂が抜け出ていく。同じ感情で、同じ場所で、同じ時代に、同じものを、はるか時空を超えて、見ている。宮尾登美子さんの「春燈」もそういう作品で、行ったこともない、海辺の家から望む高知の海が、当時の作者と同じ気持ちで、見えて来た。その街の路地裏まではっきりと見えて来る。これが小説の醍醐味というものであろう。自分の魂が脱け出て、はるかな過去とその場所に一瞬で行って、当時の作者の背後から、同じ海や時代を見つめている。そういう不思議な魂の体験をした作品であった。

0 件のコメント:

コメントを投稿